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このページでは、note未公開エッセイ3本をまとめてご紹介しています。ちょっと泣けて、沁みて、ほわっとする旅のこぼれ話をお楽しみください🫶
📍目 次
📝 第1話|“今しかない”と思った日|母を置いて出発した話
📝 第2話|静かに支えられている船の覚悟|出会いと別れの100日間
📝 第3話|絵の具が喜んでる気がした日
📝 第1話|“今しかない”と思った日|母を置いて出発した話
「母を日本に置いてきたんです」
ある70代のご婦人が、船内でぽつりと語ってくれた。
お母さんは90代後半。
何でも自分でできる人で、今も元気。
でも、それでも──何が起きてもおかしくない年齢やって。
「これが、最初で最後の旅かもしれない」
そう思って、ピースボートに乗る決断をしたんやと。

彼女は言った。
「母やからできた。もし、旦那の母やったら、私は乗れてないと思う。」
出発前に、お母さんに言ったらしい。
「もし何かあっても、私を呼び戻さんといて。
私はこれが最後やと思って行くから。」
お母さんは、それを聞いて、こう返した。
「わかってる。あんたの性格、よう知ってるもん。」
70代と90代の母娘。
そのあいだに流れてる、静かな信頼。
その言葉を思い出すたびに、胸があつくなった。
たぶん、こういうきわどい決断をして、
乗船してる人、たくさんおったんやと思う。
実は、私もそのひとりや。
2年前に申し込んだとき、
正直、乗れるとは思ってなかった。
義母が90代前半の高齢で、普段は元気やけど、いつ何があってもおかしくない。
ほんまに、気が気じゃなかった。
体調を崩すたびに、
「いけるやろか」「やっぱ無理かも」って、
心の中で行ったり来たりを繰り返してた。
それでも、申し込んだ。
私らの場合は、もしもの時のために、旅行保険に
「旅行変更費用補償」をつけてた。
呼び戻されたら戻るつもりやった。
洋上からでも、戻る覚悟で乗った。
でも、出発の少し前に、体調をくずして入院。
それから、あれよあれよと弱ってしもて、とうとう旅立ってしもたんよ。
まだまだ元気やと思ってた。
だからこそ、悲しかった。
だけど、きっとこの旅は、
気い使いの義母が「行ってきなさい」って言うてくれたような気もしてる。
ピースボートには、いろんな人が乗ってる。
けど、みんなそれぞれ、
何かを乗り越えて、背中押して、腹くくって来てる人ばっかりやった。
人生のどこかで、
“今しかない”と思える瞬間が来る。
その時、乗る決断をした人たちがいたってこと。
この船の上には、そんな決意が、静かにたくさん漂ってた。
──Appy
📝 第2話|静かに支えられている船の覚悟|出会いと別れの100日間
ピースボートの世界一周クルーズは、
乗船者の平均年齢が75歳とも言われている。
80代、90代の方もたくさん乗っていて、
100日以上の長い旅を、みんなそれぞれの想いで過ごしていた。

でも、そんな長い航海だからこそ、
避けて通れない現実もある。
船の中で、そっとお別れを迎える方も、いる。
実は、ピースボートには
もしもの時に静かに対応できる準備がされている。
専用の安置室もあるし、
医療チームも控えていて、
必要なサポートが、そっと、当たり前のように動いてくれる。
乗船したばかりの頃、
よくビュッフェやレストランで顔を合わせた素敵なご夫婦がいた。
何度も何度も会ったから、
自然とお話しするようになった。
でも、ある日を境に──
全く、姿を見かけなくなった。
寄港地でも、船内でも、
ついキョロキョロと探してしまったけど、
とうとう、再会することはなかった。
思い出すたびに、
いろんな想像をする。
きっと、ご自宅の事情だったのかもしれない。
もしかしたら、体調の変化だったのかもしれない。
真実はわからないけれど、
ただひとつ言えるのは──
この船は、すべてを受け入れる場所だったんやな、ってこと。
大きな旅には、
にぎやかな笑顔だけじゃなくて、
静かな覚悟と、あたたかい優しさが
ちゃんと隠れている。
そんなことを、ふと感じた
世界一周クルーズの、静かな裏話です。
📝 第3話|絵の具が喜んでる気がした日
水彩画教室で、いつも隣に座っておしゃべりしてた、80代のご婦人。
その人が描くクレヨン画は、どれも色使いが可愛らしくて素敵で、お世辞抜きで、いつも静かに見惚れてた。
「絵はね、小さいころからずっと描いてるのよ」って。
いろんな旅をして、いろんな景色を描いてきたって話してくれた。
「自分で思ったように描けばいいのよ。
自分が赤だと思えば赤だし、青だと思えば青なの。」
その口調は、押しつけがましくも、説教じみてもなくて、
静かな教室の中で、ほんまに小さな声で、
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと話してくれた。
そんな彼女が、どうしてクレヨンを使ってるのか、ある時そっと聞いてみた。
「忘れちゃったのよ。バカでしょ。
でも、本当は絵の具で描きたいの」
って、ちょっと照れたように笑ってた。
彼女のクレヨンセットは、使い込まれた年季もの。
短いのもあれば、まだ残ってる色もある。
でも、教室ではずっとそのクレヨンで描いてた。
私はというと、売店で買ったばかりの水彩セットを、
下手ながらも毎日せっせと使ってた。
「なんか、おかしいな」と思った。
こんなに素敵な絵を描く人がクレヨンで、
水彩を描きたいと言ってるのに、
初心者の私が新品のセットを独占してるって。
ある日、思いきって「私の、水彩セット使いませんか?」って声をかけた。
最初は丁寧に断られたけど、
何度か勧めると、
「本当にいいの?」って、何度も何度も聞いてくれて。
その顔が、なんだか少女みたいやった。
その日、私の筆箱をパレット代わりにして、
ふたりで並んで水彩画を描いた。
時間内に描き終わらなかったから、
「よかったら、数日間、持っててください」って、絵の具を貸した。
部屋に戻ると、まさかの斜め前の部屋やって、
ふたりで笑ってしまった。
ご婦人は何度も「申し訳ないわね、ありがとうね」って言ってくれて、
「幸せな気持ちになれた」って。
数日後、絵の具を返しに来てくれて、
完成した作品も見せてくれた。
それがもう、めちゃくちゃ素敵で。
同じ絵の具とは思えへんぐらい。
私は思った。
「ああ、絵の具が喜んでるわ。」
ほんまに、そう思った。
──Appy
それではまた、ふわっと届くころに🫶
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